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演出家〜十人十色〜
何人もの役者でひとつの作品を創りあげていくには、
みんなが同じ方向を向いていないといけません。
全員を同じ方向に向かせ、ひとつのまとまった作品に仕上げていく。
これが演出家の仕事です。
オーケストラの指揮者と似ているかもしれませんね。
いくらひとつひとつの楽器の演奏が素晴らしくても、
こっちの楽器は音が大き過ぎ、あっちの楽器はテンポがずれてたり、
とかしたならば良い演奏とは決していえないでしょう。
芝居も同じです。
お互いがお互いを引き立たせて、ひとつのまとまった作品に
していかなくてはなりません。
そういう大事な要となるのが演出家です。
演出家には様々なタイプがいます。
私が関わらせてもらってきた演出家の方々は、
「仲間」って感じの方が多いです。
もちろん、演出家としての手腕、芝居に対する思いとかには
尊敬の念(?)を抱いておりますが、
普段はからかっちゃうこともあったりして…。
でもね、遠慮なくものが言えるというのは、
私にとってとてもありがたいタイプです。
気を使ったり、怖かったりして、
言いたいことが言えない、聞きたいことが聞けない、
ということになると、良い芝居は創れないですから。
付き合い始めて間もない演出家さんだったりすると、
お互いに言葉がうまく通じないってことがあります。
微妙なニュアンスとか、こんな感じでっていう説明が、
うまく伝わらなかったりします。
しかし、これも不思議なもので、付き合いが長くなってくると、
言いたいことがわかってくるんですね。
事細かに説明してもらわなくても大丈夫になるんです。
これは、その演出家の世界観がわかってくるからでもあるんでしょうね。
そして、演出家サイドでも、
この人にはこういう説明のしかたをするとわかり易いみたいだ、
っていうのがわかってくるので、より意思疎通がスムーズになってきます。
演出家さんが、役のイメージ、場面の雰囲気などを
話してくれることがあります。
その説明のたとえ話が実にうまい人がいます。
すると、イメージがふくらんできて、役者は大助かりです。
*嫌いな先生の車を、できっこないよと思いながら
4人でひっくり返そうとしたら、
思いがけずひっくり返せてしまって、
やばいっ、逃げろ〜ってときのワクワク感。
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*久しぶりにご主人が帰ってきたので、
うれしくてうれしくて、尻尾をいきおいよく振り、
おしっこを漏らしちゃった犬のような感じ。
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…あれ?わかりにくいですかねぇ…。
稽古で役者が演じたときに、演出さんから「他のもっと違う言い方で!」
と注文がくることがあります。
なので、違う言い方でやってみます。
「それも違うなあ。もっと他の言い方で!」
あんな感じ、こんな感じ、と色々な言い方でやってみます。
「みっつ前のやつがいいなぁ。」
え〜っ、それってどんなんだったっけ?
ひととおり役者が演じてみた後で、
「やってみて、どう?」って聞く演出家さんがいます。
こう聞かれちゃうと、実は大変なんです。
ここがこうダメだから、こういう風に直して…って言われるのなら、
「はい。」でおしまいなんだけど、
「どう?」って聞かれちゃうと、一生懸命考えないと
いけなくなってしまうからです。
すると、自ずから、こうすればいいかも、
こうしなきゃいけないなってことがわかってくるものなのですわ。
でもでも、役者にみんな言わせるとは、
なんてずるい演出法なんだあ!と、思っちゃいます。
思っちゃいますが、これが実に有効な演出法だっていうのは、
勿論わかってますよ。
なぜなら、演じるときに、自分がどうしようと思って、
どのように演じているかを、
そして、それがきちんと表現できたかどうかを、
役者は、常に把握していなければいけないからです。
「どう?」演出法は、そのことを役者に認識させながらの演出なわけです。
ですから、とても有効なんです。
“ずるい”演出家さんは、ずるいばかりではありません。
役者が、自ら考えたことを検証した後には、
的確なアドバイスを与えてくれますから。
こんな風に、色々なタイプの演出家がいます。
では、一体どういう演出家が理想の演出家なんでしょう?
自分との相性ってものはあるのだろうと思いますけど、
芝居に対して真摯な態度で接している演出家は、
みな素敵な演出家さんです。
「これでお客さんにうけなくても、それは、みんなのせいじゃなくて、
俺の責任だから。だから、みんなは自信をもって
稽古でやってきたことを出して!」
本番前の演出家さんの言葉。
感動した一言です!!
演出家さんって、ホント個性的だよねぇ……… |
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